現実と向き合う。。。

先日、50才すぎの男性が、奥さんと受診されました。

4年前から、下痢、便秘、下血をくり返していて、家族も心配していたけど、なかなか仕事が忙しい、といいながら受診はしていず、1ヶ月前から、どうにも肛門部に痛みが出てきて、どうしようもなくなったので何とかしてくれ、といったものでした。

診察させていただくに、上腹部にしこりをふれ、肛門に指をいれると、すぐそこに腫瘍があります。

肝臓に転移を伴う直腸癌です。

本人も分かっている様です。『全部いって下さい。』とのことです。

ただ、この方は4年前から症状があったのにその現実から逃げていた人です。それに、『わたしはどうなってもいいんです、ただ、両親が心配しますから、、手術はどうしようかと思ってます』あるいは、『たぶんもうダメでしょうけど、子供がいるから、どうにかせんといかんかなと思ってます』と、検査中もことあるごとにおっしゃってました。

この方の『全部いって下さい』は、ちゃんと自分で受け止めますから、そして、自分で判断しますから、教えて下さい、ではないのです。
言葉は悪いですが、ただの『かっこつけしい』なんだと思いました。

この方に、額面どおり、すべてを伝えたら、、、つまり、何もしなければ、きっと3ヶ月から6ヶ月、という話を伝えたら、きっと、悲観して自殺をしてしまうでしょう。そこまでいかなくても、家族との関係もきっとぎくしゃくしてしまうでしょう。

悩みました。はじめて診察させて頂いたかたです。この方に何を伝えるべきなのか、この方が、残された時間にやるべきことはなにか、それを考えるために自分にできることは?。。。

悩みに悩んだ末に、結局伝えました。

『@@さん、御本人もお察しのとおり、直腸と肝臓にしこりがあります。
ちゃんと検査しなくては分かりませんが、残念ながら、癌だろうと思います。それも早期ではありませんし、何もしなければ、半年から1年で命を落とすかもしれません。

酷な言い方ですが、4年間、@@さんが、御自身の症状から、目を背けてきた結果です。

もし、このまま、目を背けつづけるのであれば、あと半年で命は尽きると思います。それは@@さんが、いままでとってきた行動の結果です。

こうなってしまった以上、安易な言葉で、こうすれば、治るとか、長生きできるという小手先の策をろうしようとは思いません。

確かに、今あるしこりをできるだけ取り除いて、かつ、残った癌に対しては抗癌剤を用いる、これが、今の医療の王道ですし、それをしていこうと思います。うまく言葉をつなげて、その治療を受けて頂くのは可能ですが、よく聞いて下さい、いまの@@さんにとって一番大事なのは、ちゃんと現実を受け止め、自分でそれに立ち向かおうとする心だと思います。

@@さんにとって、一番大事なものは何なんでしょう。お話をきいていると、御両親や子供さん、奥様へのおもいが強い気がします。

手術をして、抗癌剤をつかっても、もしかすると、根治して、長生きするということは望めないかもしれませんが、自分のおかれた現状を把握して、それに立ち向かうという、最後の生きざまを見せてみようとは思いませんか?

普通はこんな話はしません。
お話を伺っていると、自分の人生を投げておられる、どうでもいい人生なんだけど、両親がいるから、子供がいるから。。そんな感じで人生を送られているのではないかと感じてしまいました。

そんな方に、こんな現実をつきつけたら、自殺されるのではないかという気持ちでいっぱいです。いわば、医者生命をかけているといってもいいかもしれません。
けれども、@@さんを囲む奥さんや子供さんの気持ちを思うと、いわずにはおれませんでした。

このまま現実に目を背けながら、後悔を胸に、半年後に命をおとすよりも、現実をとらえ、『お父さん、よく頑張ったね、その生きざまは、メッセージとしてちゃんと受け取ったよ』といってもらえながら、旅立つのとはどちらが幸せでしょう?

ぜひ、今までの考え方をすてて、今日から、いや、今から、必死で戦う気持ちで生きて下さいませんか?』

そう伝えました。
4年間目を背けてしまったことを後悔するより、いまから後悔しない生き方をして頂きたい。。

これからが戦いの始まりです。