「先生、お腹が痛いって外来に来てるんですけど、いいですか?」

「ん?もちろん、いいよ。なんで、そんな遠慮がちに聞くんですか?」

「いえね、飛び込みの患者さんは診ないっていう先生もいたりするんですよ。」

「へえ、看護婦さんも気をつかって大変ですね」

「それに、その患者さん、かなりお酒飲んでるようなんですよ。。」

「あれま、膵炎じゃないといいけどね、、診せてもらいましょうか。。」

一口にお医者さんといってもいろいろある。

一番なじみのあるのは、やはり町のお医者さんであろうか。。個人で開業し、そこに来てくれる患者さんを診察する。当然、自分の城なので、スタッフも気心が知れている。

次に、入院患者さんがたくさんいるような総合病院に勤めている勤務医。
大学の医局をやめて就職しているお医者さんと、大学の医局から派遣されているお医者さんの二通りある。
この場合、受け持ち患者さんも多く、その病院専属で働いており、他の病院にアルバイトとして当直にいくことはあまりない。

そして、このまめひげ先生みたいに大学病院に籍を置いているお医者さん。

大学病院のお医者さんでも、教授や助教授、とまでは行かないまでも、文部教官になると、ボーナスもでるし、お給料もそこそこもらえるので、あまり当直にいくことはない。
対して、まめひげ先生みたいなヒラのお医者さんは、日々の生活費を稼ぐために、週末になるとこうやってよその病院に当直に出かける。

「@@さん、どうぞ。」

「うーん。。」

お腹をさすりながら、お酒のにおいをぷんぷん引き連れて診察室に入ってきた。一瞬で診察室がお酒のにおいで一杯になる。

「こんばんわ、大分飲まれたですか?」

「4,5日ずっとのんじょります。」

「いまはどうあるんですか?」

「お腹が痛くて、吐きそうです。」

「背中は痛くないですか?」

「いや、お腹だけですね。」

「大分飲まれているようなんで、まずは点滴させてもらいますね。それに、膵炎を起こしているといけないんで、血液検査もさせてもらいますからね。」

点滴と血液検査、痛み止めの指示をだし、さっきイレウスの患者さんのことで呼ばれた病棟にあがっていく。

しばらくして外来にもどってみると、痛み止めが効いてきたようで、苦痛表情はとれている。
血液検査も膵炎をうたがう所見はない。

とはいえ、痛みの原因は分からずじまいだし、何かあるといけないので、お腹の超音波をあてることにする。

「@@さん、なんでこんなにたくさん飲んじゃったんですか?」

洋服をめくりあげ、タオルを巻き込みながらそれとなく尋ねて見る。

「やけくそになって飲んじゃうんですよ。」
「生きててもなんの楽しみもないんですよ。」

「そうなんですか?」

「嫁もさきに死んでしまうし、息子は嫁ももらえんし、、楽しい事なんか、ひとっつもないですわ。」

超音波のプローブを持つ手を動かし、膵炎がないこと、そのほかたいした異常はないことを確認したのち、それとなく話を聞いてみる。

「なんで生きてるのかわからんのですよ。宗教もよんでみたけど、ひとっつも分からんのですよ。飲むしかないじゃないですか。。それにもう70ですよ。いまさら。。って思って、やけくそで飲んでしまうんですよね。。」