今日のもっとも大変な仕事は患者さんの家族への説明でした。医療の世界ではムンテラといいます。MUND therapyです。mundはドイツ語の口という意味なので、口による治療という意味です。
この言葉自体も、ドイツ語と英語の混じったもので、和製外来語という感じですね。
こんなのがたくさんあります。それも一種の日本の医療の特徴でもありますね。

そのムンテラをしました。
約3年前から肝臓がんの治療を繰り返していて、1年前に肺に転移して、それでもいろんな治療を繰り返しながら、いままで頑張ってこられた60歳くらいの男性です。

積極的な治療は、ついこの間まで大学で頑張ってやっておられましたが、万策尽きた、という感じで私の今いる病院に紹介していただきました。

その方の住まいから大学までは約1時間です。それを頑張って自分で運転していかれてました。それもきつくなったとの事で約30分である、私のところにお見えになるようになりました。
はじめは割りと元気も良かったのですが、日に日にきつくなりました。ご自宅の近くの病院を紹介しましょうか?と薦めるものの、この病院がいいといわれます。

客観的に見ると、入院されたほうがいいなあと思いながらも、自宅にできるだけいたい、という希望もあり、薬を使いながらごまかしごまかし外来でみていました。

そんな気丈な方でしたが、数日前に電話がありました。
どうも体がきつい、あしたいくので入院させてくれ、とのことでした。きつければ、今からでもいいですよ、と伝えましたが、こんばんはゆっくりお風呂に入って、おいしいもの食べるとのことでした。お酒もやってもいいですよ、と付け加えて電話を切りました。

翌日から、入院が始まりましたが、その数日後から食べることができなくなりました。
全身状態も大分悪くなってきました。そして、すこし意識も遠くなってきました。

もう近いですね、という話をするために本日家族の方に集まっていただきました。

いままで、よく頑張ってこられたと思います。もし、まだ、治療法があるのなら、それをすることによって、本人が幸せならば、やってあげたいとは思いますが、客観的にみて、難しいかもしれません。私にできることは、いかにいい最後を迎えれるか、それを迎えることができるように協力させていただくのみです。

いまは痛みについては、痛み止めでコントロールされていますが、がんが全身にまわっての悪液質という状態と、肺の病気による息苦しさとが本人にとってきつい原因です。
これは、酸素をたくさん上げたり、点滴をしてもこのきつさは取れないかもしれません、とってあげるためには眠り薬を使うより他はないかもしれません、ただ、いままで気丈にしておられた方ですから、その気力がなくなるとすーっといってしまうかもしれませんね。

もし、お元気なときにこんなことをしてみたいとか、夢をおっしゃってたのなら、可能な限りお手伝いしますので、どうぞお申し付けください、と伝えました。

子供さんもたくさんおられました。
こんなことがないと、自分の死に様を考えることってないですよね。親として、最後のしつけ、教育なのかもしれないなって思った自分でした。