ちょっときつかったかな。

小学4年生の男の子が、お母さんと外来にやってきました。
23日から左の人さし指が痛くて、今日見たら化膿しているというものでした。

おそらく何かのとげが刺さってしまったのでしょう。少々のばい菌なら自分の免疫力で治っちゃうんですが、ばい菌の力が強かったのか、思ったよりはやく皮膚が閉じてしまったのか、確かに化膿していました。

治療としては、皮膚を切開して、膿をだし、ふたたび膿がたまらないようにするのみです。
「切るんですか?」「そう、がんばって」っていったところで、後ろのお母さんの方を向いて泣きはじめ、おかあさんに何かしらごそごそいいはじめました。

どうやら切開したくない、治療をしたくないといっている様です。

むふふ、と内心笑いながら(不謹慎ですが、おかしくて笑ったんじゃないですよ、人生の教育ができるって思っちゃったんです)、「じゃあ、@@くん、こっち向いて」

泣きながらこっちを向いたところで、

『@@くん、何年生?』「4年生」
『切りたくないの?』「。。。」うなずくのみ
『それでもいいよ。ただ、治療しなかったらどうなると思う』「。。。」
『化膿しているところが広がって、指が黒くなって、最後はその指はなくなっちゃうだろうな』『それでもいい?』「。。。」

『いい?いま指の治療をしなくても誰もなんともない、@@くんはいま、痛い思いをしないからそれでいいかも知れないけど、いつかその責任を自分でとらなきゃいけない。つまり、指がなくなるかも知れないということを自分で責任とらなきゃいけないんだよ。
指をけがしたのは自分の責任、もしかするともっと前からすこし痛かったかも知れない、その時に治療しなかったのも自分の責任、そして、いま、治療をするかしないかきめるのも自分の責任、おかあさんもお医者さんも誰も決めてくれない。
自分で決めたことは自分で責任とらなきゃいけない、泣いてても何の解決にもならない、歯をくいしばって、よーく考えなきゃ。

もちろん、治療をしようと自分できめても、自分で治療することは出来ないから、その道のプロであるお医者さんにお願いすることになる。
もし、僕に任せてくれるんなら、僕はプロとして治療してあげる。つまり、できるだけ痛くないように、ちゃんと治るように、自分の持っている知識と技術をつかって治療してあげるよ。

これはね、これから、君が大きくなって、いろんなことを経験するときも一緒、だれも助けてくれない、自分で考えて決断しなきゃ、もちろん自分で全部できるわけではないから、その専門家にお願いする。そうやって生きていかなきゃいけないんだよ。

さて、治療する?どうする?』

結局切開を受け入れてくれました。

けど、泣いていてなかなか手を出してくれません。確かに手を押さえ付けて切開してもいいんですが、泣き止むまでまちました。

そしてもう一言『いい、男の子は人前で泣いちゃダメ、歯を食いしばって、たえなきゃ。耐えたことを誇りに思いながら、また、次をがんばるんだよ』

本当は治療自体はそんなに痛くはないんです。
本人も「あんまり痛くなかった」といってました。

傷も数日もしたらよくなるでしょう。
でも、彼の人生の中で今日という日が特別な日のうちの1日になってくれたらいいなと思いながら、彼の背中を見送りました。

それに、診察室をでるときに「ありがとうございました」といってくれたその一言が嬉しかったです。

自分がかわったきっかけも小学4年生だったんです。

すこしはその恩返しができたかな。

それより、変な医者のいうことを聞いてくれたその子やそのお母さんに感謝したいと思います。