少年

男は本屋をでた。
“雨か。。今にも振りそうだったもんな。。まあ、今日、縁あってめぐりあえたこの本たちさえぬれなきゃ、それでいいや。。
そういえば、奥さんと心花は買い物に出かけるって言ってたな。。洗濯ものとりこんでたかな。。結構おっちょこちょいだから、もしかすると干したままかな。。それも愛嬌。。それならそれで、また、夕食のおかずのたしにでもしようかな。。”

なんてにやにやしながら、考えながら、約10Mさきにとめてある愛車にむかって走り出そうと、本がはいった紙袋を脇にしまいこみ、息を吸い込んだ瞬間、右手に少年のすがたが目に入った。

男に気づかれて、視線を浴びてしまった少年は、戸惑ったように一歩下がった。

「雨が振り出しちゃったね。傘がないんだ。。どうやって帰るの?」

このような場合、早く生まれたものの責任として、会話の突破口をあけようとした。
それも、少年の返事を呼び込むような、ゆっくりした口調で。。

少年は、いったん右に視線をそらし、何事か考えたうえで、

「あ、お母さんが迎えに来ることになっています。」

きっと、視線をそらしたところで、“送っていこうか”といわれないための理由を探したのであろう。明らかに答える口調が上滑りのものだった。。

「そうか。。何年生なの?」

取り繕った言葉のあとに残る、“本当じゃないってわかったんじゃないか”とか“あらかじめ予測した好意を拒絶してしまった”というなんともいえない気持ちを味あわせないように、今度は、心からの言葉で答えれるような質問を投げかけた。

「よねんです。」

さっきとはうってかわって、勢いのある言葉が返ってきた。

「そう、、勉強がんばってね。。じゃあね」

そう言い残して、男は一足先に車に乗り込んだ。

そして、あえて彼のほうに視線を向けることなく、アクセルを踏み込んだ。

バックミラーごしに、雨の中に向かって走り出す少年をみながら、

“こうやって一人前の男になっていくんだなあ。。”

って、なんとなく淡い郷愁を胸に覚えながら、交差点に入った。本当は左に曲がるはずの道だったが、なんとなく遠回りをしたくなって、そのまま直進していった。。