■
「あ、先生、お見えになられたんですね。今からアッペの麻酔をお願い出来ますでしょうか?」
大学での仕事をおえ、ばたばたと電車に乗り込み、約1時間、車窓をながめながら、どんな週末になるんだろう。。とぼんやりしたり、当直あけに予定している友人との食事会のことを空想したり。。
そうこうしているうちに最寄りの駅に到着したことを告げる車掌さんの声。
「七万石の城下町、ばんば躍りで有名なのべおか、、のべおか。。おわすれも。。。」
以前はなかったのに、いまは、その土地土地の紹介をしてくれるようになったんだろうか。。とすこしほのぼのとしながら、「のべおか、ななまんごく、じょうかまち。。」なんて、昔覚えた『ばんば踊り』を口ずさんでみる。
「ごくろうさんでーす」
いつものように駅員さんに声をかける。
「お、先生、当直ですか?がんばってね。。」
そんな駅員さんの声に後押しされて改札をでていく。
到着した駅から当直先の病院まで、歩いて約10分である。
歩いていけない距離ではないが、到着時間は14時15分。
当直の予定時間は14時からである。ダイヤの都合で、30分くらいの遅刻は公認されているとはいえ、やはり気が引ける。
「延岡病院までお願いします」
と座り心地のいい場所をおしりでさぐりながら、運転手さんに声をかける。
そしてつくこと14時25分。
当直室にはいり、鞄をおろした瞬間の電話である。
「あ、先生、お見えになられたんですね。今からアッペの麻酔をお願い出来ますでしょうか?」
「ああ、こんにちわ。アッペなんですね。分かりました。」
四年前までこの病院で勤めていたこともあり、この病院の緊急手術の多さは身にしみて分かっている。
だから、土曜日の午後にそういう急患手術が行われても、「さもありなん。。」という感じで、納得出来た。
電話の様子から、それ程急いではなさそうだったので、お手洗いを済ませ、一口のお茶でのどを軽く湿らせて手術室の更衣室にはいった。
更衣室でいつものように術衣に着替えた後に、「がんばってくるね。手術がうまく行くように祈っててね」と心の中で思いながら薬指の指輪をはずした。
そして、帽子をかぶり、マスクをつけ、改めて、ズボンのひもをきつく締め上げ、いざ、戦場へ。。
手術室の自動ドアの前に立った。。