以前、救急車でコンビニに買出しにいって、市民から写真を撮られて、マスコミにバッシングされたニュースが流れましたが、今日は救急車で桜を見に行ってしまいました。

って書くと、不真面目な感じですが、実は大真面目なんです。


それに正確に書くと、帰りにさくらを見に寄り道をしたというところでしょうか。。



直腸がんの術後再発で、いわゆる末期状態の患者さんの尿がまったく出なくなりました。

原因はリンパ節転移による尿管の圧迫。

このままにしておくと、カリウムが上昇し不整脈で突然死の可能性もある。。



ということで腎ろうといって、拡張した腎盂にチューブを入れることに。。

残念ながらうちの病院に泌尿器科がありません。いつも懇意にしていただいている近くの泌尿器科の先生に入れていただくことにしました。

その病院に行くのには、消防署にお願いして、高規格救急車で大至急で行っていただいたのですが、状態が落ち着いたとの連絡をいただき、お迎えに行った帰りの出来事なのです。

かなり苦しそうな状態で、なんとか駆け込んだ行きの状態と変わって、呼吸も楽になっておられました。

付き添いの息子さんに

「楽になられたようでよかったですね」

そう申し上げると、患者さん御本人も言葉にはならないものの、こちらに顔を向けてくださいました。

「もう春ですよ。桜が見えるといいですね」

実は私が主治医ではなく、本当の主治医は3月で移動。主治医交代の狭間の一日だったのですが、年末からずっと入院してがんばっておられる患者さんで、なかなか状態がよくならず、数週間前から個室に入っておられました。

言ってみれば、病院で最期を迎えるのもそう長くなく、おそらく最後の春を迎えられたことになります。

そして、幸か不幸か、こうやって病院の外に出られたのも、おそらく最後でしょう。


{何かしてあげれることはないだろうか、出来ることはないだろうか。。}


幸い迎えの救急車は自前の病院の救急車で、運転してもらっているかたも病院のスタッフです。聞くと、このあとの予定はないとのこと。。

「どこか桜の見えるところに止まってくれませんか?」

「そんなこと出来ませんよ」

そういわれたら、全責任はとるし、患者さんにとって最良のことをするべきだ。。なんて、喧嘩してもいい。。なんて思ったのですが、

「いいですよ、任してくださいね」

と、にっこり笑ってくれました。


ちょっと風がつよく、患者さんの顔に覆いかぶさる日の光をなかなか除けるのも難しかったし、実際、そこに居れたのはほんの2−3分だったけれど、救急車から降りて、春の風と春の光、桜のにおいを感じてもらえたかな。。

そして、近々、最愛のお母さんを見送らないといけない息子さんのこころに少しでも暖かさを添えることができたかな。。


快く引き受けてくれたスタッフにありがとう。

そして、今年もきれいに咲いてくれた桜にありがとう。

一日一日を必死に生きておられる患者さんに。。身をもって、命の大切さを教えていただき、ありがとうございます。

すこしでもみなさんの役に立てるように自分を磨いて行きたいと思っています。